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ショートショート+

ショートショート+(しょーとしょーとぷらす)では、電子ショートショート作家くにさきたすくがショートショートを使って何か新しいことをできないかを模索していきます。

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ジョークの日

+自作

ジョークの日

 何とかの日という名前が付いた日は無数にあるが、そのほとんどが元来の意味を失っていくものだ。クリスマスにしろバレンタインにしろ元の意味を何も知らず、人々は盛り上がる。消費する。誕生日もそうだ。生まれたことを祝う日ではなく、プレゼントをもらえる日だ。
 今日という日も人々は両手を上げて世界をにぎわしている。在庫を一掃するかのように世界中で花火があがる。僕の住む町は、何かの鳥のコスプレをした連中で溢れ返る。大きなくちばしと小さな羽をつけ、卵を持って投げ合っている。そんな人々の喧騒が四階にある僕の部屋のベランダまで、蒸気のように昇ってくる。彼らなりに今日と言う日の意味を考えた結果だと思うが、僕にはよく意味が分からない。
 僕はベランダで夜空を見上げながら、隣にいる彼女に言った。
「今日は何の日だっけ?」
「ふふふ。なかなか良いジョークね」
 僕のジョークに彼女は夜空を見上げたまま笑い、少し考えてから返してきた。
「明日もここに来ていい?」
 僕の顔を覗き込む。彼女の方が一枚上手だ。僕は自然と笑いながら答えた。
「いいよ。明日は休み?」
「あ~。仕事の日だった。残念」
 こうしてジョークを言い合うことが、今日と言う日の本質であると僕らは信じていた。しかし彼女にはかなわない。いくらいいジョークだと思っても、彼女の返しの方が素晴らしいのだ。どれだけパンチを放っても、鋭いカウンターにやられてしまう。もっとスマートで切れ味のあるジョークを言いたい。
 気持ちを落ち着けてよく考えようと、ポケットから煙草の箱を取り出した。しかし肝心の煙草はもう無かった。これはチャンス。傑作のジョークを思いついた。
「……ああ。もうおしまいだ」
「これを機会に禁煙でも始めたら? 長生きできるかもよ」
 やはり彼女の方が頭の回転は速いらしい。僕は彼女の才能に少し嫉妬した。
「ついでにお酒もやめればいいじゃない」
「じゃあ、君は海外ドラマを見るのをやめろよ」
「いやよ。……あ! そういえばレンタルしたのを返すの忘れてた」
「じゃあ、僕が明日返しに行ってあげるよ」
 僕らは笑った。今日は朝からこんな具合にジョークの応酬が続き、何度も笑った。今まで行き違いや些細な喧嘩もあったけれど、今日はそれらの全てをリセットしてくれる。
 突然、彼女は夜空を見上げ指を差して言った。
「あ! 流れ星! 願い事をしなきゃ!」
 彼女は鼻先で手を組んで目をつぶった。彼女に指差された流れ星は、眩い光を放ち白い尾を引きながら夜空を横切って行った。そして遠くの山に落ちた。煙が上がる。数秒遅れて大きな衝撃音が響いた。
 僕は彼女の顔を見て言った。
「あれ? それはいまいちだなあ。いま世界中で何人が同じジョークを言っている事か」
「でもね、一回は言っておかないと。もうこんな機会はないんだから」
 彼女は微笑んだ。
「そうか。そうだね。願い事は何?」
「明日いい天気になりますように」
「ははは。叶うといいね。……あ! 流れ星!」
 僕は笑顔で指を差した。一段と大きな流れ星が降ってくる。地球最後の日。僕らはもう笑い合う事しかできないのだ。

 

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