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ショートショート+

ショートショート+(しょーとしょーとぷらす)では、電子ショートショート作家くにさきたすくがショートショートを使って何か新しいことをできないかを模索していきます。

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コーティング

+自作

コーティング

「えぇ。えぇ。若返りたいというのは誰しもが持つ願望です。それを叶えるのが私共の使命だと考えております」
 若い女の店員はそう言った。テーブルを挟み、店員と向かいあっているのは、その願望を持った女。
 店員の言葉を信用していいのかどうか、女の気持ちは揺れていた。女にとって店員はまだ若く、自分の悩みに親身になって向き合える年代ではないと考えていた。
「でもねぇ。画期的な新商品って書いてあったけど、蓋を開けてみたらただのパックって言うんじゃねぇ。そんなのどこにだってあるじゃない」
「これは特殊素材でできたパックでして、今までのものとは全く違うんです」
「どう違うの?」
「奥様。私いくつに見えます?」
 店員はにこやかに言う。
「え? 二十代前半くらいに見えますけど」
「……そうですか。実は私、四十を超えているんですよ」
 女は怪訝な表情をする。
「まさか。そんなわけないわ。そんな肌つやで」
「じゃあ、証拠をお見せしましょうか」
 店員はそう言うと、両手を額に当てた。生え際あたりを掻くような仕草をすると、そこから一気に顔の皮膚を引きはがした。
 女は息をのんだ。そこに現れたのは、皺が刻まれた紛れもない四十代の女の顔だ。
「これが特殊素材のパックなのです。パックというより、コーティングと申し上げたほうが正しいでしょうか」
 そういうと店員は、はがした顔をくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ入れた。そして小瓶を取り出す。
「顔にまんべんなくこの薬品を塗るだけで、顔の皺の隅々まで薬が浸透して、皺のない顔を作るのです。通気性もよく水も通す素材です。しかも、すぐさけたりすることは無く耐久度も抜群です。そのうえ非常に軽く伸縮性もあるので、パックを貼っているという感覚はみじんも感じられません。もちろん日常生活に何の問題ございません」
 女はあっけにとられながらも、もうその魅力に取りつかれていた。
「ただ効果は24時間程度なので、毎日はがして塗り直してもらう必要はありますが」
 その程度の事なら化粧をするのと変わりない、と女は思った。さらに、パックをはがすだけでよいのなら、化粧を落とすよりも簡単ではないだろうか。女の心はもう決まっていた。
 女の目の色を見ながら店員は言う。
「特殊な薬品なので取り扱いに注意することもございますが、まあ難しいことはいいでしょう。説明書が入っております。それを読んでいただければ……。いかがでしょうか。この商品は」


 女はそれから毎日若い顔で過ごした。職場でも通勤の電車の中でも、周りの目が変わったことを実感していた。
 しかし、家に帰ると憂鬱になるのだ。パックをはがすことで元の自分の顔と対面しなければならないというのは、もちろん買う前から分かっていたこと。一生懸命化粧をしていたころと同じ。それ以上のことがあった。
 特殊素材でできたパックは、捨てることができないのだ。
 説明書にはこう書いてある。
『ご不要になったパックは、特殊な薬品でできている為、現行の法律では捨てることが出来ません。付属の返送用ボックスで当社までご返送ください。ボックスには使用済パック一年分を収納することが可能です』
 女は法を無視して捨ててしまうことも考えた。だが、伸縮性と耐久性を備えたこのパックは、はさみやカッターで切り刻むことが出来ない。はがしたパックをそのままの状態で透明のゴミ袋に入れて捨てるしかない。しかし、それは女のプライドが許さなかった。かと言って、使うのをやめることも、もう出来ない。

 今日も女はパックをはがす。皺の隅々まで浸透し吸着していたパックは、女の現実の顔の生き写しだ。女はそれを返送用ボックスに丁寧に収納する。見たくない現実が、伏せられて、重ねられていく。毎日、毎日。

 

このメイクは驚異的…絵画のような顔に変身した化粧アートいろいろ:らばQこのメイクは驚異的…絵画のような顔に変身した化粧アートいろいろ:らばQ